2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

蛍光色素の発展の歴史 (Part1) : CF® Dyeの誕生

Tech Info

Biotium社は、革新的な蛍光ソリューションの提供により科学研究の発展を支えてきました。その中心となるのが、業界で最も進化した小分子蛍光色素ファミリーであるCF® Dyeです。本シリーズでは、蛍光色素の歴史と化学的発展を振り返りながら、CF® Dyeがいかにして生まれたのかを紹介します。

Eric Torres, PhD

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the Biotium, Inc. for providing “CF® Dyes. What started it all? Part 1. A History of Fluorescence” information presented here.

蛍光色素の歴史

蛍光色素の始まり

蛍光色素の歴史は19世紀にさかのぼります。1871年、ドイツの化学者 Adolf von Baeyer はフタル酸無水物とレゾルシノールを反応させ、最初の合成蛍光色素「レゾルシンフタレイン」を合成しました。今日では「フルオレセイン」と呼ばれるこの化合物は、強い黄緑色の蛍光を発し、その後の多くのキサンテン系色素(Oregon Green、Rhodamine、Alexa Fluor®など)の基盤となりました。

免疫蛍光法の誕生

1941年、米国の医師 Albert Coons は、リウマチ熱関連細菌を研究する過程で、抗体にフルオレセインを結合させて抗原を蛍光で可視化する手法を開発しました。これが免疫蛍光法の始まりです。

免疫蛍光法は大きな進歩をもたらし、のちにタンパク質だけでなく、オルガネラ、脂質、核酸など幅広い分子を標識する技術へと発展しました。現在までに免疫蛍光を用いた論文は10万件以上に達し、蛍光色素はあらゆる研究分野で不可欠なツールとなっています。

図1. PubMedにおける免疫蛍光法関連論文数の推移

赤色色素へのシフト

フルオレセインは便利でしたが、短波長(緑)の蛍光は自家蛍光の影響を強く受け、背景信号が増えてコントラストが低下する問題がありました。 この課題に対応するため、より長波長(赤)の蛍光を持つローダミン系色素が開発されました。ローダミンはフルオレセインに比べて光安定性が高く、pHの影響も受けにくく、深部組織の観察にも適していました。

図2. キサンテン系色素(FluoresceinとRhodamineの構造例)

Waggonerのシアニン色素

1990年代、化学者Alan Waggonerは写真フィルムに使われていたシアニン色素に着目し、研究用途に適した新しい蛍光色素群を開発しました。 シアニン色素は、2つの含窒素環をポリメチン鎖で結合した構造を持ち、鎖長を変えることで励起・発光波長を自在に調整できます。また、水溶性が高く、抗体標識時の蛍光クエンチングも少なく、発光範囲は560~800 nmに及びました。これらは Cy™ Dye として広く利用されました。

図3. シアニン系色素(Cy™3, Cy™5)の構造例

スルホン化による改良

キサンテン系やシアニン系の色素はいずれも、抗体やタンパク質に結合すると蛍光が弱まるという課題が残っていました。これは、標識後に色素分子同士が凝集して非蛍光性の「H-アグリゲート」を形成するためです。 この問題を解決するため、1990年代初頭に導入されたのがスルホン化です。分子にスルホン酸基を付与することで負電荷を与え、分子同士の相互作用を抑えて凝集を防ぎました。その結果、水溶性や生体適合性も改善され、改良型のCy™ DyeやAlexa Fluor® Dyeが誕生しました。

Alexaの時代

1990年代後半、Molecular Probes社(現Thermo Fisher)はローダミン系にスルホン化を導入し、Alexa Fluor®シリーズを開発しました。 これらは当時最も明るく光安定性に優れた蛍光色素となり、青から近赤外までの幅広いカラーパレットを展開しました。Alexa Fluor®は現在も世界中で広く使われています。

図4. Alexa Fluor®色素(488, 532, 546, 568, 594, 610)の構造例
Alexa Fluor® は Molecular Probes 社(現 Thermo Fisher Scientific)の登録商標です。
Cy は Cytiva の商標です。

スルホン化の問題点

一方で、スルホン化には欠点もありました。
・負電荷による非特異的結合の増加 → 背景染色の上昇
・吸湿性による活性基(NHSエステル、マレイミドなど)の加水分解 → 標識効率の低下

こうした課題に対処するため、2000年代にBiotium社創設者Fei Maoらが開発したのがCF® Dyeです。CF® Dyeは、スルホン化の利点を活かしつつ欠点を解消した、新世代の蛍光色素です。

図5. 蛍光色素の発展の歴史

蛍光色素の発展の歴史 (Part 2): CF® Dyes(Clear Fluor)で鮮明な蛍光を実現 に続く

■参考文献

  1. Lavis, L. D. & Raines, R. T. Bright building blocks for chemical biology. ACS Chem. Biol. 9, 855–866 (2014).
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  3. McKay, I. C., Forman, D. & White, R. G. A comparison of fluorescein isothiocyanate and lissamine rhodamine (RB 200) as labels for antibody in the fluorescent antibody technique. Immunology 43, 591–602 (1981).
  4. Pavlak, A. Fluorescence Guru: Alan Waggoner Illuminates a Field. Science Connection (2007).
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  6. Ernst, L. A., Gupta, R. K., Mujumdar, R. B. & Waggoner, A. S. Cyanine dye labeling reagents for sulfhydryl groups. Cytometry 10, 3–10 (1989).
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  8. Mujumdar, R. B., Ernst, L. A., Mujumdar, S. R., Lewis, C. J. & Waggoner, A. S. Cyanine Dye Labeling Reagents: Sulfoindocyanine Succinimidyl Esters. Bioconjugate Chemistry 4, (1993).
  9. Panchuk-voloshina, N. et al. Alexa Dyes , a Series of New Fluorescent Dyes that Yield. J. Histochem. Cytochem. 47, 1179–1188 (1999).

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