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総説 : エクソソーム研究から細胞外小胞解析へ

研究ナレッジ

横井 暁 先生

名古屋大学医学部附属病院産婦人科/ 高等研究院

日本細胞外小胞学会 理事

1. エクソソーム研究の夜明け

エクソソーム研究の始まりは、細胞が分泌する100 nm 前後の小さな小胞が「エクソソーム」と命名され、これが単なる不要物ではなく、細胞の機能的活動の一端を担っている可能性が認識され始めた時期に遡る。当初、エクソソームは細胞内の老廃物など、不要物を排出する仕組みとして理解され1)、生命現象に積極的に関与するものとは考えられていなかった。しかし1990年代後半、免疫細胞由来のエクソソームが抗原提示細胞の成熟を促し、免疫応答に関与することが報告2, 3)されると、エクソソームは単なる副産物ではなく、特定の機能をもつ生理学的構造体として注目を集めるようになった。さらに2007年には、エクソソームに含まれるmRNAやmicroRNAが受け手の細胞に取り込まれ、遺伝子発現を変化させ得ることが報告された4)。この発見は「細胞間情報伝達の新しい様式」として世界的な注目を集め、エクソソーム研究を大きく前進させる契機となった。

黎明期の研究は、エクソソームという用語が広く用いられた一方で、実際にはサイズや形成経路の異なる多様な小胞が混在していたことが後に明らかになっている5)。例えば、細胞膜の外向き出芽によって形成されるmicrovesicle/ ectosomeや、アポトーシスに伴って生じるapoptotic bodyなども、同様に細胞外へ放出される小胞として知られていた。これらの研究は当時、互いに独立して進められていたが、いずれも「細胞外に放出される小胞が情報伝達や恒常性維持に関与する」という共通の概念を有していた。当時は、超遠心分離や沈殿法などの物理的手法により得られた沈殿物を、由来や生成経路にかかわらず一括して「エクソソーム」と呼ぶことが一般的であった。このため、研究報告ごとに対象とする小胞の実体や性質に差異が生じ、結果の比較や再現性の検証が困難であった。しかし、技術革新により電子顕微鏡観察やナノ粒子トラッキング解析(NTA)、プロテオミクス解析などが進展すると、細胞外に存在する小胞群が決して単一ではなく、サイズ・密度・膜構成・分泌経路のいずれにおいても多様であることが明らかとなっていった。この「多様性の認識」は、後の細胞が放出する小胞に関する研究の概念確立の基礎的土壌となり、研究領域をより広い文脈で再定義する契機となった。

2. 細胞外小胞としての確立

エクソソーム研究の急速な拡大とともに、細胞外に存在する膜小胞は単一の均質な構造体ではなく、生成経路やサイズの異なる複数のサブタイプから構成されることが明確になり、こうした理解の進展は、研究対象の呼称や定義を再考する契機となり、エクソソームを中心概念とする枠組みの限界を浮き彫りにしていった。この潮流の中で、2011年に国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles : ISEV)が設立され、世界各国の研究者による協働体制が整えられた。ISEVは、細胞外に分泌される膜小胞を包括的に捉えるための標準的な用語として「extracellular vesicles(EV)」を採用することを提唱した。EVとは、生物種や細胞種、サイズ、分離手法を問わず、脂質二重膜で囲まれ、独自に増殖しない細胞外粒子の総称である。すなわち、エクソソームはEVの一形態として位置づけられるようになったのである。

この包括的概念の導入により、従来「エクソソーム」と一括して報告されていた粒子群は、形成経路や物理的特性に応じて区別して扱うことが推奨されるようになった。さらにISEVは、2014年のMISEV2014(Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles)6)に始まり、2018年7)、2023年8)と改訂を重ね、EV研究における報告基準の標準化を進めてきた。最新のMISEV2023では、EVと非膜性粒子(non-vesicular extracellular particles : NVEPs)を区別し、物理的性質・由来細胞・搭載分子などに基づく「operational term」の明記を推奨している。これにより、研究成果の再現性や比較可能性が高まり、EV研究は定義的にも技術的にもより堅牢な科学領域として今まさに世界的に発展し続けている。

3. 細胞外小胞解析の基盤

“エクソソーム研究”という大枠の認識から、“細胞外小胞解析”へと解像度が上がったことは、解析対象であるEVが極めて多様であることが明らかになったからに他ならない。サイズ、由来、分泌経路、搭載分子のいずれも一様ではなく、分離精製法や観察条件によって得られる画分も均質ではない。そのため、研究者は解析段階で自らの扱うEVの性状を明確に定義し、比較可能な形式で情報を共有する必要がある。そのためにもMISEVはガイドラインとして必読であり、成果発表の際に研究者自身を守ることに繋がる。こうした基礎的な透明性の確保こそが、EV研究の信頼性を支える根幹であり、再現性・標準化・評価軸という三本柱をもとに今なお体系化が進められている。特に、EVとNVEPsの明確な区別、分離法依存性に起因する粒子選択性の認識、さらに機能解析に至るまでの手順の開示が重要かつ必須となる。これらは、EVがもつ不均一性を「誤差」ではなく「多様性」として科学的に扱うための基盤であり、研究の比較可能性を高めるうえで不可欠である。加えて、報告書式の標準化やデータ共有の推進も進んでおり、電子データベースが整備されつつあることは、国際的な情報連携の促進に寄与している。

解析技術の進歩は、EV研究を飛躍的に加速させてきた。NTAやナノフローサイトメトリーによる粒子サイズ・数の定量化、電子顕微鏡やクライオトモグラフィーによる構造解析、マルチオミクス解析による包括的分子プロファイリングなどがその代表である。近年では、単一EV解析技術の発展により、個々のEVに含まれるタンパク質・核酸・糖鎖などの分子構成を直接測定することが可能となりつつある。また、マイクロ流体デバイスやナノファイバー素材など、微小空間でのEV捕捉・操作技術が進化し、わずかな試料から高感度にEVを検出することが可能となっている。こうした多様なモダリティの融合は、EVの平均像ではなく、個体差・サブタイプ差・疾患依存性を明示的に可視化する方向へと解析を進化させている。技術の高度化に比例して、得られるデータの複雑性と解釈の困難さも増している。分離法のわずかな差が結果の再現性に影響し、解析系の多様化が研究間の比較を難しくすることも少なくない。このため、研究者は技術的革新の成果を取り入れると同時に、解析系の限界やバイアスを意識的に評価し、自らの研究条件を明確に記述する姿勢が求められる。EVの多様性を理解する上では、手法や装置に依存しない共通指標の確立と、データの階層的整理(物理的特性、分子構成、機能的影響の三層構造)を行うことが重要である。

EV解析研究の主たる目的は単に粒子を検出・同定することに留まらず、それがどのような生物学的意味を持つかを文脈的に理解することである。特定のEVサブタイプがどのような生理的・病理的プロセスに関与しているのか、疾患や環境によって分泌プロファイルがどのように変化するのか、といった問いに答えるためには、実験的・情報学的両面からの統合解析が不可欠である。特に疾患関連EV研究では、血液や尿など体液試料中に存在する多様なEVのうち、どの粒子が疾患特異的情報を担うのかを特定する「サブタイピング解析」が鍵となる。こうした流れの中で、臨床応用を視野に入れたEV解析の基準化も進みつつある。臨床検体を対象とする場合、採取条件・保存法・分離精度などのわずかな違いが結果に影響するため、国際的に共有可能な手順の確立が求められている。診断応用では、測定対象の同定・均質性の評価・測定環境の再現性が重要であり、治療応用では、EV製剤の性状・安定性・ロット間一貫性といった品質指標が不可欠である。これらの取り組みは、EVを「測定対象」から「生物活性をもつ機能単位」として捉える方向性を明確にしつつある。

総じて、細胞外小胞解析の基礎は単なる技術的手順の整備に留まらず、EVの多様性を受容し、研究成果の再現性と信頼性を支える科学的基盤の確立にある。解析技術の進化と標準化の融合、そして生物学的文脈の深い理解が、次世代のEV研究を支える柱となる。

4. 応用性と未来

EV研究は、ここ十年で基礎生物学の枠を越え、疾患生物学、再生医療、創薬など多様な領域へと広がってきた9)。EVは細胞の状態や環境を反映し、その分子構成が動的に変化することから、疾患の診断や治療効果の指標として注目されている。さらに近年では、植物や微生物、さらには人工的に作製された合成EVなど、非哺乳類由来の小胞にも関心が高まりつつある。これらの研究は、EVが生物種を超えて共通する情報伝達機構であることを示唆しており、生命現象の理解を新たな次元へと導いている。EVの解析には、分離キット、フローサイトメーターを含む粒子解析、画像解析、AIによるデータ統合など、多様な技術が導入されつつある。これらの解析ツールを柔軟に活用し、EVの特性を分子・構造・機能の三側面から総合的に解き明かすことが、次の10年における研究の中心課題となるだろう。こうした技術融合により、EVの生物学的多様性や疾患特異性をより精密に捉えることが可能となり、未知の機能や応用的価値が開かれていくと期待される。

最終的に、EV研究の持続的発展は「開かれた連携」と「基礎への回帰」の両輪によって支えられる。多様な分野の知見を融合しつつ、細胞外小胞という現象を正確に理解しようとする科学的誠実さが、応用研究の確度と社会実装の信頼性を保証する。EV研究の未来は、分野横断的な共創と科学的厳密性の調和の上に築かれるべきものである。

図 不均一なEV
ヒト卵巣がん細胞から抽出したEVの凍結電子顕微鏡画像。単一クローン細胞から抽出したEVでも不均一であり、サイズも異なるが搭載する分子も多様であることが想定される。

■参考文献

  1. Johnstone RM, Adam M, Hammond JR, Orr L, Turbide C. Vesicle formation during reticulocyte maturation. Association of plasma membrane activities with released vesicles (exosomes). J Biol Chem. 1987;262(19):9412-20.
  2. Zitvogel L, Regnault A, Lozier A, Wolfers J, Flament C, Tenza D, et al. Eradication of established murine tumors using a novel cell-free vaccine: dendritic cell-derived exosomes. Nat Med. 1998;4(5):594-600.
  3. Raposo G, Nijman HW, Stoorvogel W, Liejendekker R, Harding CV, Melief CJ, et al. B lymphocytes secrete antigen-presenting vesicles. J Exp Med. 1996;183(3):1161- 72.
  4. Valadi H, Ekstrom K, Bossios A, Sjostrand M, Lee JJ, Lotvall JO. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol. 2007;9(6):654-9.
  5. Yokoi A, Ochiya T. Exosomes and extracellular vesicles: Rethinking the essential values in cancer biology. Semin Cancer Biol. 2021;74:79-91.
  6. Lotvall J, Hill AF, Hochberg F, Buzas EI, Di Vizio D, Gardiner C, et al. Minimal experimental requirements for definition of extracellular vesicles and their functions: a position statement from the International Society for Extracellular Vesicles. J Extracell Vesicles. 2014;3:26913.
  7. Thery C, Witwer KW, Aikawa E, Alcaraz MJ, Anderson JD, Andriantsitohaina R, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles 2018 (MISEV2018): a position statement of the International Society for Extracellular Vesicles and update of the MISEV2014 guidelines. J Extracell Vesicles. 2018;7(1):1535750.
  8. Welsh JA, Goberdhan DCI, O’Driscoll L, Buzas EI, Blenkiron C, Bussolati B, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles (MISEV2023): From basic to advanced approaches. J Extracell Vesicles. 2024;13(2):e12404.
  9. Mizenko RR, Feaver M, Bozkurt BT, Lowe N, Nguyen B, Huang KW, et al. A critical systematic review of extracellular vesicle clinical trials. J Extracell Vesicles. 2024;13(10):e12510.

原稿をご寄稿いただいた横井 暁先生に心よりお礼申し上げます。