2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

フローサイトメトリー入門講座 vol.3

Tech Info

vol.2 からの続き)

ここでは、フローサイトメトリー実験の段階ごとにその手順の概説をします。本情報は、あくまで一般的なガイドであり、実際にフローサイトメトリーの実験を行う際には使用する細胞種に応じてプロトコールを最適化する必要があります。

一般的なFACS染色プロトコール

細胞は数百~数千もの細胞表面抗原を発現し、これが細胞種、生物学的機能、発生段階などを特定する材料となります。異なる臓器に存在する細胞は、それぞれ特徴的な細胞表面抗原をもつため、この抗原に特異的な蛍光標識抗体を用いたフローサイトメトリー解析により細胞の識別が可能です。非標識抗体を用いる場合には、標識二次抗体による染色ステップが追加で必要となります(非直接的免疫染色)。

:もし細胞を96ウェルのU底あるいはV底プレートで染色する場合、非結合一次抗体を最大限に除去するための洗浄ステップが必要です。

1 表面抗原の直接蛍光免疫染色

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、FACS緩衝液、PFA固定緩衝液

  1. 適切なプロトコールに準じて単一細胞懸濁液を作製し、染色緩衝液で細胞濃度を107 cells/mlに調製する。
  2. 100µLの細胞懸濁液を必要数(未染色コントロール、補正コントロール、オプションでイソ型やFMOコントロール、および試験サンプル)の染色チューブに入れる。
  3. 至適希釈した抗体を対応するチューブに入れ、4°C(氷上)で30分間、暗所で培養する。
  4. 氷冷PBSを細胞に添加して洗浄し、300~400xgで遠心した後、100~200µLのFACS緩衝液/PFA固定緩衝液に再懸濁する。
  5. 4°C, 暗所で保管し、24時間以内にデータ取得することが望ましい。
2 表面抗原の間接蛍光免疫染色

主な試薬: PBS、染色緩衝液、FACS緩衝液、PFA固定緩衝液

  1. 適切なプロトコールを用いて単一細胞懸濁液を調製し、染色緩衝液を用いて細胞濃度を107 cells/mlに調製する。
  2. 100µLの細胞懸濁液を必要数(未染色コントロール、補正コントロール、オプションでイソ型やFMOコントロール、および試験サンプル)の染色チューブに入れる。
  3. 至適希釈した抗体を対応するチューブに入れ、4°C(氷上)で30分間、培養する。
  4. 氷冷PBSを細胞に添加して洗浄し、300~400xgで遠心した後、100µLの染色緩衝液に再懸濁する。
  5. 適切な希釈率の特定二次抗体を添加し、細胞を4°C(氷上)で30分間、暗所で培養する。
  6. 氷冷PBSを細胞に添加して洗浄し、300~400xgで遠心した後、100~200µLのFACS緩衝液/PFA固定緩衝液に再懸濁する。
  7. 4°Cの暗所で保存し、24時間以内にデータ取得することが望ましい。
3 細胞内抗原の一般的な免疫染色手順
A. メタノールによる透過処理

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、FACS緩衝液、0.5 ~ 4% PFA含有PBS(厳密なPFA濃度を基準として全ての抗体パネルに使用)、100%メタノール

  1. 適切なコントロールと共に、プロトコール1または2に準じて表面染色を行う。
  2. 染色済み細胞を107 cells/mlとなるよう0.5~4% PFAに分注する。未染色の分注品を細胞内染色コントロールとして調製する。
  3. 細胞を10~30分間、遮光して固定する。
  4. 300~400 xgで遠心して固定液を洗い落とし、氷冷した100%メタノールをゆっくり添加してゆっくりとボルテックスする。
  5. 細胞を氷上で30分間、遮光して培養する。
  6. 400~500 xgで遠心してメタノールを洗い落とし、細胞を100µLの染色緩衝液に再懸濁する。
  7. 100µLの細胞懸濁液を必要数の染色チューブ(未染色コントロール、補正コントロール、オプションでイソ型やFMOコントロール、および試験サンプル)に入れる。
  8. 至適条件で希釈した一次抗体を対応するチューブに入れ、4°C(氷上)で30分間、培養する。
  9. 氷冷PBSを細胞に添加し、400~500 xgで遠心した後、100µLの染色緩衝液に再懸濁する。
  10. 適切な希釈濃度の二次抗体を添加し、細胞を4°C(氷上)で30分間、暗所で保存する。
  11. 細胞を冷却PBSで洗浄し、400~500 xgで遠心後、100~200µLのFACS緩衝液/PFA固定緩衝液に再懸濁する。
  12. 遮光して4°Cで保存し、24時間以内にデータ取得することが望ましい。
4 細胞内サイトカイン / リン酸免疫染色

細胞内染色ステップでは、表面抗原決定だけでなく、同時に細胞質内や核に存在する抗原(サイトカインや転写因子)の直接測定が可能となります。このステップでは、蛍光標識した表面抗原と染色後に細胞の固定そして透過処理が必要です。血液や他の組織由来のあらゆる細胞の機能活性を、特別な分離処理をすることなく、直接測定することができます。よりよい結果を得るためには、細胞内でサイトカイン産生を増大させるために分裂促進因子(PMA, Ca++、またはペプチド抗原決定基やタンパク質輸送阻害剤、ブレフェルジンAなど)によるin vitro細胞刺激が必要な場合もあります。

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、FACS緩衝液、0.5%PFA含有PBS、0.1%サポニンまたは100%メタノール、適切な細胞刺激剤、ブレフェルジンAまたはモネンジン

:もし細胞を96ウェルのU底あるいはV底プレートで染色する場合、非結合一次抗体を最大限に除去するための洗浄ステップが必要です。

  1. 適切なプロトコールに準じて細胞を回収し、予め決定した濃度で細胞をチューブに分注する(細胞種や刺激剤による)。
  2. 刺激剤を添加し、細胞を37°Cで必要時間培養する。次項の表は、標的タンパク質に対する刺激剤と培養時間の参照である。
    • 分泌サイトカインを染色する場合、ブレフェルジンAまたはモネンジンを製造元の推奨濃度で培養期間中に添加する。
    • 未染色コントロールや染色基線コントロールとして未刺激の分注物を取り置く。
  3. 最終濃度が0.5% PFAで細胞を固定し、刺激を止める。
  4. 緩やかにボルテックスし、細胞を氷上に15分間静置する。
  5. 固定液を洗い落とし、プロトコール1または2に準じて表面染色を行う。
  6. 適切な透過処理試薬に細胞を再懸濁し、プロトコール3aまたは3bに準じて透過処理と細胞内染色を実施する(100%メタノールまたは0.1%サポニン)。
5 In Vitro 細胞刺激剤参照表
標的サイトカイン/リン酸化タンパク質標的細胞刺激物処理時間表面マーカー
IL-2PBMCPMA (50ng/ml)4-6 hoursCD3
IL-3T-細胞PMA(50ng/ml) + ionomycin (1µg(ml)4-6 hoursCD4
IL-4PBMCPMA(50ng/ml) + ionomycin (1µg(ml)4-6 hoursCD4
IL-6PBMCLPS (100ng/ml)4-6 hoursCD14
IL-10PBMCLPS (100ng/ml)18-24 hoursCD14
GM-CSF /IFNγ/TNFα/TNFβPBMCPMA(50ng/ml) + ionomycin (1µg(ml)4-6 hoursCD3
pStat5PBMCGM-CSF (20ng/ml) + IL3 (20ng/ml)15 min.CD123, CD116
pStat3PBMCG-CSF (20ng/ml) + IL6 (20ng/ml)15 min.CD126, CD114
pERKPBMCIL3 (20ng/ml) + IL6 (20ng/ml) + FLT3L (20ng/ml)15 min.CD123, CD126, CD135
6 Dye efflux staining (分染法)

色素除外染色(分染法)は、生細胞と死細胞を分離するとともに、希少な幹細胞“サイドポピュレーション”の単離に使用されています。免疫染色の際に生死判定の染色を日常的に行っている場合、他の染色を行う前に実施したほうがよいでしょう。

A. ヨウ化プロピジウム(PI)染色(生存率)

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、PI溶液(10µg/mlのPBS溶液)

  1. 細胞を回収し、PBSで1回洗浄する。
  2. 細胞を染色緩衝液に107 cells/mLで再懸濁する。
  3. 100µlの細胞懸濁液に対して5µlのPI染色液を添加し、緩やかに混合して遮光して1分間静置する。
  4. 染料を洗い落とし、細胞を適切な容量の染色緩衝液に再懸濁する。
B. 7-アミノアクチノマイシン D (7-AAD) 染色 (生存率)

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、7-ADD溶液(100µg/mlのPBS溶液)

  1. 細胞を回収し、PBSで1回洗浄する。
  2. 細胞を染色緩衝液に107 cells/mLで再懸濁する。
  3. 100µlの細胞懸濁液に対して2µlの7-ADD染色液を添加し、緩やかに混合して30分間氷上で静置する。
  4. 染料を洗い落とし、細胞を適切な容量の染色緩衝液に再懸濁する。
C. ローダミン 123 および Hoechst 33342染色(サイドポピュレーション)

主な試薬 : PBS、5% FBSのPBS溶液、染色緩衝液、Hoechst 33342溶液(1mMのPBS溶液)またはローダミン123溶液(10µg/mlのPBS溶液)

  1. 細胞を回収し、PBSで1回洗浄する。
  2. 細胞を5% FBSに107 cells/mLで再懸濁する。
  3. 100µlの細胞懸濁液に対して1µlの染色液を添加し、37°Cのウォーターバスで30分間インキュベートする。
  4. 染料を洗いおとし、細胞を予め温めた色素を含まない5% FBSに再懸濁した後、37°Cのウォーターバスで30分間インキュベートする。
  5. 細胞を再度洗浄し、適切な容量の染色緩衝液に再懸濁する。
7 DNA含有量または細胞周期解析

主な試薬 : PBS、染色緩衝液、PI溶液(50µg/mlのPBS溶液)、RNase A(10µg/ml)、70%エタノール

  1. 細胞を回収し、PBSで1回洗浄する。
  2. 細胞を染色緩衝液に107 cells/mLで再懸濁する。
  3. 500µlの細胞を予め冷却した別のチューブに分注し、氷冷した70%エタノールを滴下しながら緩やかにボルテックスする。
  4. 細胞を氷上に1時間静置する。
  5. 細胞にPBSで洗浄し、400~500 xgで10分間遠心する。2回繰り返す。
  6. 1mLのPI溶液を細胞沈殿物に添加し、よく混合する。50µLのRNaseを最終濃度0.5µg/mLとなるように添加する。
  7. 細胞を4°Cで一晩培養する。
  8. 細胞をPBSで1回洗浄後、適切な容量の染色緩衝液に再懸濁する。

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