2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

フローサイトメトリー入門講座 vol.8

Tech Info

vol.7 からの続き)

フローサイトメトリー トラブルシューティングガイド

フローサイトメトリー(FACS)実験で、遭遇する問題に関して、以下のガイドを原因の可能性と解決法のチェックリストとしてご利用ください。

蛍光強度が弱い、または蛍光シグナルが得られない。

 原因解決策
1抗体が分解または期限切れである。
  • 抗体が製造元の使用説明書に準じて保存されていたことを確認する。
  • 抗体ストックを記録し、期限切れでないことを確認する。
  • 抗体の滴定を行い、同じ分注品を保存する場合は、保存バッファーに0.09%でアジ化ナトリウムを添加する。
2蛍光色素の蛍光が衰えている。
  • 蛍光標識抗体は遮光保存する。新しい抗体が必要。
3抗体濃度が検出限度以下である。
  • 使用前に抗体を滴定し、特定の実験に最適な使用量を決定する。
  • 陰性(未染色)と陽性コントロールを使用する。
4標的抗原の発現が低すぎる。
  • 異なる細胞種における抗原発現を文献確認し、適切な陽性コントロールを使用する。
  • 可能であれば、凍結サンプルではなく、新しく回収した細胞を使用する。
  • 抗原(サイトカインなど)発現が事前のin vitro処理に依存する場合、細胞培養/刺激プロトコールを最適化する。
5抗原-抗体結合が最適限界である。
  • 抗体の生物種特異性を確認する。
  • 抗体培養時間と温度を最適化する。
  • ビオチン標識した一次抗体と追加のビオチン-ストレプトアビジンステップを利用し、シグナルを増幅することを考慮する。
6細胞内抗原に接近できない。
  • 細胞透過処理プロトコールを最適化する。
7細胞内抗原が分泌される。
  • 標的を検出するためには、標的は膜結合型か細胞質に存在する必要がある。ブレフェルジンAなどのゴルジ遮断剤を利用する。
8表面抗原が内部移行し始めている。
  • プロトコールの全ステップを4°Cで行い、氷冷試薬を使用する。透過処理を氷上で行うことを推奨する。
9染色細胞の蛍光がブリーチしている。
  • 染色直後に細胞を確認する。
  • 長期にわたり保存する場合は、固定液(PFAなど)をサンプルに添加する。アルコール固定液は避けた方がよい。
10低発現抗原がほの暗い蛍光色素と対を形成している。
  • 弱い抗原と、PEやAPCといった明るい蛍光色素を組み合わせる。
11一次抗体と二次抗体との互換性がない。
  • 一次抗体を産生した生物種で産生された二次抗体を使用する。
12レーザーとPMTセッティングが蛍光色素と互換性がないか、蛍光特異的チャネルに対してPMT電位が低すぎる。
  • データ取得前に適切な機器設定を読み込む。
  • 全ての蛍光色素に対して設定を最適化するため適切な陽性・陰性コントロールを使用する。
13蛍光シグナルが補正を超えている。
  • 補正のために視覚的比較するのではなく、MFIアライメントを使用する。

飽和または過剰な蛍光シグナル

 原因解決策
1抗体濃度が高すぎる。
  • 使用前に抗体を滴定し、特定実験に最適な使用量を決める。適切な陽性・陰性コントロールを使用する。
2細胞内染色の場合、未結合の抗体が細胞に捕捉されている。
  • 各抗体培養ステップ後に細胞を十分に洗浄し、TweenやTriton Xを洗浄バッファーに添加する。
3高発現抗体と明るい蛍光色素が組合せられている。
  • 強い抗原には、FITCやPacific Blueといったやや暗めの蛍光色素を組み合わせて使用する。
4蛍光特異的チャネルに対してPMT電位が高すぎる。
  • データ取得前に適切な機器設定であることを確認する。
  • 全蛍光色素に対して設定を最適化するため、適切な陽性・陰性コントロールを使用する。
5蛍光シグナルが補正以下である。
  • 補正する際に視覚的比較ではなくMFIアライメントを使用する。
6遮蔽が不十分
  • ブロッキング段階段階だけでなく抗体とともに1%から3%の遮断剤を添加(遮断溶液に抗体を希釈)し、ブロッキング時間を延長する。

バックグラウンドが高いまたは非特異的染色

 原因解決策
1未結合の余剰な抗体がサンプルに存在する。
  • 全ての抗体培養ステップ後に、細胞を十分に洗浄する。
2非特異的細胞が標的されている。
  • イソ型コントロールを使用し、Fc結合シグナルを差し引く。
  • Fc遮断剤、BSA、またはFBSを用いて抗体培養前に細胞上のFc受容体を遮断する。
  • 追加の洗浄を行う。
  • 二次抗体抱合コントロールを使用して抱合体由来の非特異的シグナルを差し引く。
  • 交差反応性のない二次抗体を選択する。
3自家蛍光が高い。
  • 未染色コントロールを使用し、自家蛍光シグナルを差し引く。
  • 天然で自家蛍光の高い細胞(好中球など)には、自家蛍光が最小限(APCなど)である赤色チャネルで発光する蛍光色素を使用する。
  • 上記解決策が不可能な場合、これらの細胞には非常に明るい蛍光色素を使用し、自家蛍光レベル以上のシグナルを増幅する。
  • 固定液内での長期保存を避け、可能であれば染色後すぐに解析する。
4死細胞が存在。
  • データ取得前に細胞を一度ふるいにかけ、死細胞の堆積物を選別し除去する。
  • PIや7-AADといった生存率色素を加え、死細胞を除外する。
  • 可能であれば、凍結細胞ではなく新しく単離した細胞を使用する。

バックグラウンド散乱が高い、または異常な細胞散乱プロファイル

 原因解決策
1細胞の可溶化または損傷
  • サンプル調製を最適化し、細胞の可溶化を防ぐ。
  • 可能であれば、高速度での細胞のボルテックスや遠心を避ける。
  • フレッシュなバッファーを使用する。
  • 染色細胞を長期間保存することは避ける。
2細菌感染。
  • 染色細胞と抗体を適切に保存し、細菌増殖を避ける。細菌は低レベルの自家己蛍光を発する。
  • 適切な無菌細胞培養を行い、細菌感染を防ぐ。
3散乱には不適切な機器設定。
  • 適切な機器設定であることを確認し、データ取得前に設定する。
  • フレッシュで健康な細胞を使用し、細胞種に適したFSCやSSC設定を行う。
4死細胞の存在。
  • データ取得前に一度、細胞をふるいにかけ、死細胞堆積物を選別し除去する。
  • 可能であれば、凍結細胞ではなく、新しく単離した細胞を使用する。
5可溶化されていないRBCs(赤血球細胞)の存在。
  • RBC細胞可溶化が完了したことを、顕微鏡下で確認する。
  • 新鮮なRBC可溶化緩衝液を使用する。
  • RBC堆積物を除去するため、必要な回数だけ洗浄する。
  • フィコール密度勾配後にPBMCsを使用する場合、リンパ球中間相へのRBC汚染を最小限に抑えるための手順を最適化する。

異常なイベント・レート

 原因解決策
1細胞数が低いため、イベント・レートが低い。
  • 最低細胞数を1X106/mlに維持する。
  • 細胞を穏やかにピペッティングしてよく混合する。
2サンプル凝集によりサンプルのイベント・レートが低い。
  • データ取得前に細胞をふるいにかけ、堆積物を選別し除去する。
  • 染色前に細胞を穏やかにピペッティングしてよく混合し、サンプル実行前に再度よく混合する。
3機器設定が正しくない。
  • 必要に応じて閾値パラメーターを調整する。
4サンプルが注入チューブに詰まったため、事象が得られない。
  • 製造元説明書に従ってフローサイトメトリー注入チューブの詰まりをとる(通常、10%の漂白剤を5-10分間流した後、dH2Oを5~10分間流す)。
5
  • サンプル濃度が高く、事象率が非常に高い。
細胞培養を 1X106/mlに希釈する。
6フローセル内またはシースフィルターの空気のため、事象率が非常に高い。
  • 機器マニュアルに従って、適切な段階をふむこと。

抗原決定基の損失

 原因解決策
1過剰なパラフォルムアルデヒド
  • パラフォルムアルデヒドが崩壊する際に放出するメタノールが染色に影響を及ぼす。1%のみのパラフォルムアルデヒドを使用する。
2サンプルを氷上保管しなかった。
  • 抗体は4°Cに保管して活性の損失を防ぐ。また、4°C保存することで、活性化脱リン酸化酵素やタンパク質分解酵素による対象抗原決定基の変更も防ぐことができる。
3サンプルを長時間固定した。
  • 固定プロトコールを最適化する。サンプルを長時間にわたり固定すると細胞損傷を引き起こすことがある。ほとんどの細胞は15分未満で固定できる。

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