(前編からのつづき)
CFを成功させるための広報活動は、どうすればいいでしょうか?
宣伝ツールはSNS か、マスコミか
高江洲先生
CF成功のためには、多くの方にその活動を周知する必要があります。現在、一般の方に訴求するツールとして手軽なのは、初期費用のかからないSNS でしょうか。ただ、SNS はCF 実施前から精力的に活動している場合には大きな効果も期待できると思いますが、私の場合はCF の実施にあわせて慌ててアカウントを作成したため、フォロワーも思うように増やせず、正直、有効な宣伝ツールとはいえなかったです。
我々にとって最も有効だったのは、マスメディアを通じた宣伝です。本学からCF のプレスリリースを出した際に地元の新聞社に声をかけたところ、「琉球新報」がすぐに取材にいらして、記事を掲載してくれました。その直後から支援者の数が一気に増えましたし、CF が成功したのはマスメディアの影響が大きかったですね。SNS などを通じて自分たちの活動を、自分たちの言葉で発信することももちろん重要ですが、一般に広く訴求するという点ではマスメディアの力は今でも大きいと感じました。
少額の設定があると、支援の輪が広がりやすい!
本CF は再設定した目標金額(100 万円)もクリアすることができましたが、実は調べてみると100 名弱の支援者のうち、6 割程度は我々の知り合いでした。ほとんどが研究者ではなく一般の方ですが、我々の研究生活を身近で見守ってくれている方々から支援をいただけたのは本当にありがたいことです。
また、マスメディアや口コミを通じて「何か面白いことやっているらしい」と興味をもってくれた方にとって、CF のように少額な設定があると支援しやすかったのではないかと思います。これが大学の寄付のようにかしこまったものだと気軽に支援しにくいですし、支援を募る側としても少額から支援できるのであれば知人にも案内しやすいですね。
今回のCF は主に我々2 人で進めましたが、知り合いからの支援が多かったという結果を踏まえると、単独で進めるのではなく、大人数を巻き込んで進めたほうが直接でもSNS 上でも声をかける人数が増やせるので、成功に近づくと思います。
CFに向いている研究分野はありますか?
松﨑先生
個人的な見解ですが、CF に向いている研究は2 種類あると思います。1つは社会的価値が大きく、期待度も高い研究です。例えば、iPS 細胞やAI の研究はこちらに当てはまり、多額の資金調達ができる可能性があります。最近でいえば、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)という血中タンパク質の機能解析を進めていた東京大学の研究チームが、猫の腎臓病治療薬への応用を目指してCF を実施したところ、2 億8,000 万円もの資金調達に成功したというニュース1)がありましたね。
もう1つは、社会的価値は小さいものの、“面白み”を共感してもらいやすい研究で、考古学や歴史学の研究などはこちらに当てはまりやすいかもしれません。面白みや独自性をうまくアピ-ルする必要がありますが、誰でも少額から支援できるCF の良さが活きるように思います。
ライフサイエンスの基礎研究は、前者に該当するものの、内容が一般の方に理解されづらく、CF により研究が実施できたからといって、それが直接社会に還元されるわけではないので、支援は得にくいかもしれません。だからこそ、多くの方に研究の必要性を共感していただけるよう、試行錯誤を重ねる必要があります。
科研費との棲み分けはどう考えられるでしょうか?
+αのお財布として認識するのが好ましいのでは
科研費については、基盤研究のS、A といった多額資金の種目ではAI やiPS 細胞などの結果が出やすい分野に偏る傾向にあるかもしれませんが、B 以下の少額資金の種目ではそれほど偏りがないので、研究分野に関係なく、きちんと申請すれば通るだろうと思います。予備実験のデータなどを揃えてもこうした公的資金を獲得できない場合には、安易にCF に頼るのではなく、まずはプロジェクトの遂行方法や申請書の書き方などを見直したほうがよいのではないでしょうか。
科研費は研究テーマ全体に対し、まとまった資金を獲得するような形をとりますが、CF では特定の実験のみなど、研究資金をピンポイントで集めることもできます。現段階では、CF は科研費にとって代わるものではなく、通常のグラントを申請するための“はじめの一歩”、もしくは、あと少しデータを出せば研究を完結させられるという“あと一歩”を補うために使用するのがよいと考えています。
資金調達以外のメリットもあるのでしょうか?
コミュニケーションツールとしての側面も
これは実施して気づいたことですが、CF は研究者と一般の方を繋ぐコミュニケーションツールとしての役割も果たします。例えば、アカデミストには各CF のWeb ページに支援者からのコメント機能とその返信機能があるため、双方向のコミュニケーションが生まれますし、サイエンスカフェなど直接お会いできる場をリターンに設定すれば、研究に関する説明だけでなく、どういった点に共感いただけたかや、研究に対する印象などを一般の方と話し合う機会を作ることもできます。
大学や研究室への寄付という資金援助の形はこれまでもありましたが、実際に寄付する方は研究内容に興味を持った一般の方というよりも、その研究分野に精通した個人や企業が多い印象があります。我々も研究室のWeb サイトなどに研究内容を記載していますが、共同研究者や大学院生など、どちらかというと専門家向けに情報発信している面があります。そういった意味でも、CF はこれまでの寄付と異なり、一般の方とのコミュニケーションをとりやすいツールの一つです。CF のようなサービスを通じて科学に興味をもつ方が増えれば幸いですし、一般の方からの素直な質問や率直な意見により、我々も新たなアイディアや考え方を得るきっかけになればと考えています。
研究の社会的意義を考えるきっかけに
今回、CF の準備にあたり自身の研究の全体像を客観的に捉えたことで、研究の社会的意義を改めて考えるようになりました。これまでも主に科研費など公的資金を利用して研究を進めてきたわけですから、その成果をどのような形で社会に還元できるのかを考えるべきだったでしょうが、そういった時間はあまりとれていませんでした。科学研究には学術的意義の側面もあるので、必ずしも社会的意義に拘る必要はありませんが、社会のなかでの役割を再認識すると、やはり研究のモチベーションは上がりますね。CF は資金調達のためのツールではありますが、そういったことに気づけたのは資金獲得と同じくらい大きな成果だと感じています。
“純粋”な科学研究を後押しするツール
研究にはもちろん資金が必要ですが、そこに捉われすぎると科学研究の本質を見失う恐れがあります。科学研究の世界でもよく言われる「イノベーション」という言葉は、悪く言えば「お金儲け」とも言い換えられます。もともと大学研究は、そのようなお金儲けという制約を受けないからこそ新たな発見が生まれる場と期待していますが、特定の企業から寄付を受けてしまうと少なからずそういった制約を意識せざるをえなくなります。
国からの公的資金も潤沢とはいえない状況が続くなか、民間から広く研究資金を集められるCF は、お金儲けに偏ることなく、純粋な科学研究に挑戦できる方法の一つとして有用だと思います。
■参考文献
- 東京大学基金:宮崎徹教授の猫の腎臓病治療薬研究への寄付受付終了について 2022 年1 月11 日( https://utf.u-tokyo.ac.jp/newslist/newsdetail/view_express_entity/146)
掲載元:Lab First Vol.1