2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

悩まずサクサク、英語論文の書き”型”

悩まずサクサク、英語論文の書き型Lab First

河本 健

広島大学ライティングセンター 特任教授

広島大学ライティングセンター特任教授。広島大学歯学部卒業、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。専門は生化学・分子生物学。長年の研究経験を生かし、広島大学その他で英語論文の執筆支援等を行う。

“型”を理解すれば、書き方が変わる

文章の書き方には内容に応じた型があり、その型さえ学べば執筆作業は大幅に楽になる。例えば、卒論や修論を書く際に、先輩の論文を型のお手本にした方も多いであろう。日本語の論文を書く場合には、類似の論文を眺めるだけで簡単にその型を真似ることができる。しかし、英語の場合はそう簡単にはいかない。それは、英語の文章を俯瞰的に眺めるのが難しいことと、ボキャブラリ不足で自分なりのアレンジができないためである。その状態で見様見真似で執筆すると、多くの時間と労力が必要となってしまう。では、どうすればよいか? 事前準備として、論文の型とよく使われる英語表現を体系的に習得しておくことで、英語論文を眺めただけでお手本の型が見えるようになる。

本稿では、論文の書き出しとなるIntroduction を例に、多くの論文に共通する型を理解し、限られた英語力の中で論文をまとめる方法について、3つのポイントを示す。

IMRaDに沿った構成パターンを把握

生命科学分野の論文は、Introduction, Materials & Methods, Results,and Discussion(IMRaD)型で書かれることが一般的である。実際に論文に何を書くべきかについて、明確なルールは規定されていないが、ルールがなくてもIMRaD の枠組みを使うだけで内容は一定のパターンに収まるだろう。このようなルールにない型のことを、応用言語学の世界ではMoveと呼んでいる。例えば、Introduction のMove は以下のように構成され、Move1→2→3 へと一巡することで完成していることが多い。

Introductionー
  • Move1:研究対象の背景情報
  • Move2:関連する先行研究(着眼点)と問題提起
  • Move3:本研究の紹介

したがって、第1のポイントはIMRaD ごとのMove 構成を守りながら執筆することである。これにより、読者が展開を予測しやすく、内容が伝わりやすい論文に仕上がる。

表 Move1〈研究対象の背景情報〉のキーフレーズの分類

高頻出のフレーズを真似れば、失敗が少ない

筆者らは、実際の生命科学分野の論文の各Moveにおいて、統計学的に有意に高頻度で使われる英語表現(以下、キーフレーズ)の抽出を行った。Moveキーフレーズは、Moveの内容を読者に伝わりやすくする最適なフレーズのため、積極的に活用すべきである。

キーフレーズは、に示すようにMoveごとにStep、Groupに分類して理解することができる。さらに、StepにはStep1 背景→ Step2 課題のような流れが存在する。例えば、Move1(研究対象の背景情報)のキーフレーズは、表のように分類できる。そこで、Moveキーフレーズ、あるいはそれに近い表現を用いて、Stepの流れに沿った展開を作ることが第2のポイントとなる。

図 Introduction の繰り返し構造
(河本健・石井達也:ライフサイエンス トップジャーナル300編の「型」で書く英語論文.羊土社,2022 より)

Introductionでは繰り返し構造を活用

Introduction の展開は、「背景→問題の提示→本研究の予告(方向性)」とまとめられることも多い。しかし、4段落程度で構成されるライフ・サイエンス論文のIntroduction に、この展開をそのまま当てはめることは難しい。枠組みが単純化されすぎており、実際の論文に基づくMove とは完全には一致しないからである。

筆者はMove キーフレーズの分析結果から、Introduction の多くがのような繰り返し構造をとると考察した。まず大枠として、Introduction には多くの読者の注意を引くような一般的な話題から、本研究の話へと焦点を絞り込む流れを作ることが多い。一方で、それを構成するMoveでは、Move1、2 それぞれに対しStep1→2 の流れが存在する。

具体的には、最初のMove1は背景としての研究対象の紹介(Step1)から始めて、最後に大きな問題/課題(Step2)の提示へと進む。次のMove2 では、冒頭で前述の問題の解決に繋がるような新たな背景情報(Step1)/ 着眼点を紹介し、最後に本研究で解くべき問題/課題(Step2)について述べる。そして最後のMove3 では、その問題を解決するために本研究で何を行ったのかを示すわけである。

このように、Introduction には「背景→問題→解決」の繰り返し構造が存在する。この構造を意識して論文のストーリーを展開することが第3 のポイントである。なお繰り返しの回数は、展開にあわせて工夫しよう。

読者が容易に予測できるストーリー展開を

読者は、常に次の展開を予測しながら文章を読んでいる。したがって,わかりやすい論文に仕上げるコツは、読者が容易に予測できるストーリー展開を作ることである。ここで示したIntroduction と同様に、IMRaD の各セクションの構成には一定のパターン(型)があり、その型にあわせた定型的な英語表現が存在する。それらを利用して戦略的に臨めば、論理的でわかりやすく、読者を納得させる論文に仕上げることができるはずだ。

著者紹介

ライフサイエンストップジャーナル300編の「型」で書く英語論文
著 者:河本健・石井達也
出版社:株式会社 羊土社
発行日:2022 年3 月10 日
I S B N :978-4-7581-0852-2
価 格:4,290 円(税込)