2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

前編)学振特別研究員になれる、申請書のイロハ

Lab First

大上 雅史   東京工業大学情報理工学院 情報工学系 助教

    2014 年 東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)、日本学術振興

    会 特別研究員(PD)、2015 年 東京工業大学大学院情報理工学研究科助教、2016 年 東京工業大学

    情報理工学院 助教、2020 年より現職。

    タンパク質間相互作用予測ソフトウェアMEGADOCKの開発を中心に、バイオインフォマティ

    クスとスーパーコンピューティングの融合研究を展開。2022 年よりJST 創発研究者。2014 年

    日本学術振興会育志賞 受賞、2019 年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 受賞、

    2020年 Oxford Journals ‒ JapaneseSociety for Bioinformatics Prize 受賞、2022 年 情報処理学会

    山下記念研究賞 受賞、同年 安藤博記念学術奨励賞 受賞。

学振/グラントは「スポンサーとのマッチング」である

日本学術振興会特別研究員(通称・学振)、多くの若手研究者が挑戦している日本で一番有名なスカラーシップであろう。採用されれば、博士学生に月20万円、学位を取った研究者であれば月36万円の給与(研究奨励金)が貰え、さらに研究費(科学研究費)が100万円前後貰える制度である。もちろん、誰でも採用されるというわけではなく、おおむね採用率20%の選抜がなされ、A4で8ページほどの「申請書」を出して審査を受けねばならない。申請書には何を書くか? これからやる研究の計画や、自身の能力・長所・短所、研究者を目指すうえでの抱負などである。

本題に入る前に、1つ大事なことを記しておきたい。選抜があるということは、「こういう人を採用したい」「こういう基準で選びたい」ということが予め決められていることを把握しよう。では、誰が決めているのか? それはスカラーシップや研究費を出しているスポンサーであり、今回の場合は日本学術振興会である。スポンサーが期待する人や研究課題を採用したいと思うわけなので、「私は期待に応えます」と示す必要がある。その材料が申請書なのである。すなわち、申請書には何を書いても良いわけではなく、スポンサーの期待に応えられる人間であることを(証拠と共に)示すことが何より重要なのである。学振であれば、制度趣旨が『優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えることにより、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的とし~』1)とあるので、「私は優れた若手研究者であり、主体的に研究課題に取り組みます」と申請書で主張するわけである。

このスポンサーの期待という話は実は学振に限らない。代表的なグラントである科研費、厚労科研費から、さきがけ/ACT-X/CREST/ 創発に代表される科学技術振興機構(JST)事業、日本医療研究開発機構(AMED)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、内閣府、文部科学省、経済産業省などが実施する事業に基づく研究費、各種財団・民間の助成金などに至るまで、全てに共通する事項である。

たとえば若手研究者の登竜門的存在であるさきがけ(3年半で約4,000万円の研究費)は、JST がスポンサーに相当する。さきがけでは『研究総括が定めた研究領域運営方針の下、研究総括が選んだ若手研究者が、研究領域内及び研究領域間で異分野の研究者ネットワークを形成しながら、戦略目標の達成を目指し、若手ならではのチャレンジングな個人型研究を推進します』2 )とJST がいっているので、「私は国が決めた戦略目標の達成を目指してチャレンジングな研究課題に取り組みます」と申請書で主張することになる(ただし、さきがけの場合はヒアリングもある)。スポンサーが期待する研究の内容や、スポンサーがどんな人を採用したいかについては、グラントの募集要項に細かく記載されていることが多いので、どんなグラントに応募するときでもまずは募集要項を精読することを勧める。

なお、申請書を見るのは実際にはスポンサーに負託された審査員であり、審査員は関連分野の研究者である。さきがけであれば、分野の最先端を走る意気込み(最先端を知っているか?)、ゴールに至る計画と実現度合い(無茶ではないか?)、業績(なくても良いがあるに越したことはない)、戦略目標との相性(探索的側面もあるのでドンピシャでなくてもいい)などが検討され、戦略目標の達成のために投資したいと思わせられれば勝ちである。

スポンサーの期待や伝えてほしいことを読み取る

スポンサーの期待を理解したら、スポンサーの期待に応える研究者であると伝えるために申請書を書くわけである。だが、「私は優れた若手研究者であり、主体的に研究課題に取り組みます」とだけ書いても、読み手(審査員)には何も伝わらない。必ず証拠が必要になるわけである。例えば、優れた若手研究者である理由や、主体的に研究課題に取り組むという姿勢が申請書から読み取れなければならない。

実は学振を含む各種グラントの申請書では、予め「こういうことを書いてほしい」という指示が細かく記載されている。例えば、学振DC/PD の申請書(申請内容ファイル)の1頁目には、以下のような指示がある。

2.【研究計画】
※適宜概念図を用いるなどして、わかりやすく記入してください。なお、本項目は1頁に収めてください。様式の変更・追加は不可。
(1) 研究の位置づけ
特別研究員として取り組む研究の位置づけについて、当該分野の状況や課題等の背景、並びに本研究計画の着想に至った経緯も含めて記入してください。
〔日本学術振興会Web サイト:特別研究員・申請内容ファイル(https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_sin.html#pd_sakuseiyoryo より 〕

たったこれだけの指示の内容からでも、

▶ 研究内容に対して当該分野の状況や課題等の背景をきちんと説明できる能力があるか
▶ 解決したい課題の重要性を理解し、それを伝える能力があるか
▶ 応募者がどのようなバックグラウンドの人間か
▶ 研究計画のアイデアが優れているか
▶ 専門分野が近くない審査員にもわかりやすく伝えようとしているか

といった観点で審査がされるのだと想像できる。そのため、「本研究の位置づけは◯◯である。すなわちどんな課題を解決しようとしていて、その課題がまだ世界で解決されておらず、なおかつ解決する価値のある重要な課題であり、それは私にしか解決できない」と伝えたいわけである。これをわかりやすく丁寧に示せば、審査員にも伝わるはずである。

これは申請書の2頁目以降も同様であるし、なんなら他の申請書でもほぼ同様である。書く内容・指示の内容はグラントの種類ごとに異なりはするが、指示に忠実に従い、指示の内容から何が期待されていて何を伝えてほしいと思っているのかを理解し、申請書に書き起こしていくわけである。

(後編につづく)