Interviewee ▶▶ 奥村翔 Okumura Sho
コスモ・バイオ株式会社 札幌事業部バイオプロダクツユニット
2012 年にコスモ・バイオ札幌事業部の前身である(株)プライマリーセルに入職。入職当初より研究・開発を担う部門に所属し、細胞アッセイ装置や鶏卵バイオリアクターなどの商品開発業務に携わる。2021年に北海道大学大学院博士課程を修了、博士号取得。
Q どのような経緯で、社会人ドクターになると決められたのでしょうか。
私は入職時より3 年程、産業技術総合研究所北海道センター(以下、産総研)との共同研究であった走査型電気化学顕微鏡(SECM)の研究・開発に携わっていました。残念ながら商品化には至りませんでしたが、そのときにお世話になっていた産総研の先生から、「産総研で北海道大学大学院との連携大学院をやっている。せっかくだからSECM の研究で蓄積した成果を発展させて、博士号を取得してみたら?」とお声がけいただいたのが、社会人ドクターの道に進んだきっかけです。
確かに長期間の研究でデータ自体は溜まっていましたし、学生時代にも博士号に興味を持ちながら断念した経緯がありましたので魅力的な話ではありましたが、あくまで私は会社員ですし、“二足の草鞋”というのは現実的ではないだろうとやや消極的な気持ちでした。ところが、当時の上長に相談すると、驚いたことに「せっかくのチャンスだから、ぜひ挑戦したほうがいい!」と背中を押していただいて、千載一遇と思い社会人ドクターへの挑戦を決めました。妻に相談した際、「どうせやるつもりでしょ?」と反対されなかったことも後押しになりました。もちろん初めての研究室ではなく、もともと共同研究を通して勝手知った産総研の研究室であったことも理由の一つになったと思います。
Q 働きながらの大学院生活は大変そうですが、両立は可能だったのでしょうか。
上長の後押しがあったとはいえ、実際のところ仕事と研究の両立は可能なのか、不安は大きかったです。学生時代には昼夜問わず休日返上で研究に打ち込むタイプだったので、今はそれに仕事と家族が加わるとなると、体力面の心配はもちろん、子供も小さかったので妻からさすがに怒られないかなと(苦笑)。そういった不安を一つひとつ解消するために、上長のみならず総務部とも具体的な働き方や期間、大学院の学費などについて話し合いを重ねました。相談するなかで徐々に社会人ドクターとしての生活がイメージできるようになり、前向きに取り組めるようになっていったと思います。
平日は、週2 ~ 3 日は産総研のラボに通い、残りは会社へ出勤していました。仕事と研究に費やす時間的なバランスは1:1 程度でしたが、幸いなことに私の業務は商品開発がメインのためあまり顧客の注文や問い合わせに左右されず、自分の裁量でスケジュールを立てられたため、大学院との両立には向いていたような気がします。結局、大学院には3 年半通いました。そこで、論文が書ける目途がついたので、単位修得退学を行い、その後仕事をしながら論文をまとめ、1 年後に学位申請を行って認定を受けました。ですので、学位取得までは全部で4 年半かかりましたね。
Q 社会人ドクターをしてみて、苦労された点はありますか。
ある程度覚悟はしていましたが、大学院の3 年半は予想通り忙しい毎日でしたね。実験の都合で、会社と大学院( 産総研)を行ったり来たりする日が多かったため、移動に時間をとられてしまうことももどかしかったです。とはいえ、学生時代のラボとは異なり産総研のラボは週末閉鎖されていたので、週2日の休みは確保され体力的にも問題なく、家族との時間も作れましたよ。
一方で、休日に研究したくてもできないという歯痒さもありました。学生時代に猛烈に研究に没頭する諸先輩方を見て、大学院生とはそういうものだと刷り込まれていましたから、家族と休日を楽しみながらも焦りを感じたこともありましたね。また、会社として力を入れて進めているプロジェクトがあっても、自分はあまり携われず、他の人に任せなくてはいけないという後ろめたさもありました。大学院での研究と、業務で行う研究が同じテーマであれば良いのでしょうが、なかなかそういった条件で社会人ドクターができる人は多くないと思います。
Q 今回の経験はどのように業務に活かせそうですか。
学位が直接的に何かのメリットになるわけではないですが、我々の顧客や共同研究する先生方は、私が大学院で経験した苦労といつも隣り合わせで仕事をされているため、そういった方々の話をより近い立場で聞くことができ、信頼感が生まれやすくなったというのが大きいですね。今後、対外的な業務を増やすきっかけにもなると感じています。また、コスモ・バイオでの業務を経験してからの大学院進学ということで、試薬を売る側と買う側の両方の事情を理解できるようになったのは博士号を取った強みですね。顧客に「コスモ・バイオには“ 売る”だけでなく“ 研究の”専門家もいて相談しやすい」「困りごとにもスムーズに対応してもらえる」と思ってもらえたら理想的です。
また、大学院では実験で良いデータが得られなかったり、時間がかかりすぎたりと、なんとか改善できないかと思う悩みが結構あったんです。こうした現場の悩みや苦労はニーズの高い商品を生む大きなヒントに繫がりますので、今後の開発研究に活かしたいと思います。
コスモ・バイオの製造・開発拠点『札幌事業部』のご紹介
コスモ・バイオでは、ライフサイエンス関連の試薬等の製造・開発拠点として、北海道小樽市に札幌事業所を構えています。2016 年より新たな事業としてペプチド合成・抗体作製サービスを提供開始、また鶏卵バイオリアクターを用いたタンパク質製造事業に取り組んでいます。私たちは、研究者の声から、これまではなかったものを商品化、つまり研究者が求めるものを自社製品として提供しています。
掲載元:Lab First Vol.2