2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

前編)iGEM-2023年パリ大会、初出場で世界一!

サステナビリティ

【前編】『Japan-United』リーダー 大竹 海碧 さん インタビュー

iGEM(The international Genetically Engineered Machine competition)は、合成生物学の“ロボコン”として毎年秋ごろに世界大会が開催されます。2023年11月にパリで行われた国際大会の高校生部門で『Japan-United 』は日本人チームとして初めて世界一(Grand Prize)を獲得しました。おめでとうございます!

今回、世界一に輝くまでにどのような物語があったのか、『Japan-United』のチームリーダー 大竹 海碧 さんと顧問の立教大学 末次正幸教授 にお話しを伺ってきました。


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本稿では、このような偉業を成し遂げた『Japan-United 』のリーダー 大竹 海碧 さんへのインタビューをご紹介します。

合成生物学の父 ジョージ・チャーチ著『マンモスを再生せよ』との運命的な出会い

ーーこの度は、iGEM世界大会で、初出場でGrand Prizeとのこと、おめでとうございます!日本でもiGEMに挑戦して、様々なAward を獲得されているチームもありますが、Grand Prize(世界一)は日本人で構成されているチームでは初めてと伺いました。
まずはじめに、iGEMに参加しようと思った”きっかけ”について教えてください。

大竹さんは、現在高校2年生ということで、iGEMに参加しよう、と思ったのは高校1年生の頃になると思うのですが、いつ頃から合成生物学にご興味があったのでしょうか?

大竹さん:きっかけは、中学三年生の時に読んだジョージ・チャーチ先生の「マンモスを再生せよ」の日本語訳の本に出合ったことです。実は、それ以前から遺伝子工学には興味があって。それは中学3年生の後半くらいだったのですが、東京工業大学の相澤先生の講義の録画を見る機会があり、そこから遺伝子工学の世界にとても興味を持って調べていったところ、先ほどの「マンモスを再生せよ」にたどりつきました。

マンモスのイメージ

ーー大学の先生の講義から、中学三年生で遺伝子工学に興味を持って、それから高校一年生でiGEMに参加しよう、と思い立つというだけで、本当にすごいと思います。本格的にiGEMを知って参加を決めた経緯を教えてください。

大竹さん:高校生の僕が、iGEMを知るきっかけとなったのは、東京大学で研究できるという、あるプログラムに参加した時ですね。そのプログラムで研究を進めるうちに、もっと詳しく合成生物学を勉強したいという思いが強くなりました。そこで、事務局の方にどのようにしたらよいかを伺ったところ、iGEMというのがあるというのを聞いたのが初めての出会いになります。東京大学でも1チーム、iGEMに参加されているときいて、そこからiGEMについて詳しく調べて、iGEMに挑戦したいと思うようになりました。

ーー次はチームメンバーについて教えてください。今回のJapan-United チームメンバーの方はみなさん異なるご所属とのことですが、どのようにしてメンバーを集めたのでしょうか?iGEMに参加するほとんどのチームが同じ学校のメンバーで構成される場合が多いようですが?

大竹さん:もともとiGEMの高校生チームがあって、そこに僕が途中から入った形になります。その時は8人のメンバーがいたんですけど、2023年の12月から、主にX(旧Twitter)で本格的に拡散して集めていった感じです。それとは別に、先ほどの大学で研究できるプログラムを通して誘ったりもありました。

ーーそれでは、元々あったiGEMのチームに熱意を持った大竹さんが加入された、ということなんですね。

大竹さん:はい、そうです。最終的には22名の仲間で挑戦しました。

末次先生に熱意を伝えるために、論文を完読。

ーー顧問(PI)を末次先生にお願いするに至った経緯はどのようなものでしょうか?

大竹さん:iGEMへの挑戦を決めたら、PIの先生を見つけないといけないのですが、まずお願いする前に、先生の論文を全て読んでからでないと失礼にもあたりますので、2022年11月~12月に末次先生の論文は全て読ませていただいて。読み終わったのが年末年始になってしまったので、時間をおいてお願いのメールをさせていただきました。ただ、その時は末次先生もお忙しそうだったので、メールの返信は難しいかな、、と思っていたところ、驚くことに40分後にご返信いただけたんです。

ーー英語の論文を全てですか?

末次先生:そうそう、本当に最近の論文は全て読んでくれてて、日本語の総説や以前の所属で投稿した論文もすべて。とても驚きました。ここまでしなくても話は聞くよと思っていたのですが(笑)。

ーーそれは本当にすごいですね。。末次先生にも十分に熱意が伝わって、無事に顧問の先生を引き受けていただけることになり、いよいよiGEMに挑戦する環境が整ったということですね。

テーマの選定基準は『iGEMに勝てるか?』

ーーでは、次にプロジェクトの内容について教えてください。今回は、うつ病に関する研究を発表されたと伺っていますが、このプロジェクトにしよう、と思ったきっかけは何ですか?

大竹さん:まず第一に、iGEMで勝つということを考えていました。その視点から考えると、iGEMでは、地域社会の課題をどのように解決するか、というのが評価されやすいため、今の日本で問題になっていることは何か、というところから課題を検討し始めました。そうすると、先進国の中でも特に日本での死因の上位に精神疾患が大きくかかわっているということがあり、そこから今回の研究テーマになった「メンタルヘルスケア」の課題に絞っていった感じになります。

そこから精神疾患、特にうつ病には、漢方薬つまり、自然由来の成分を使うと、ケミカルベースの薬剤に比べて副作用が少し抑えられるということが報告されていたので、それをベースにして突き詰めていきました。

末次先生:iGEMは分子生物学ではなくて、合成生物学をベースにしたプロジェクトになります。いわゆる分子生物学等の研究分野では、わからないものに対して研究を進めていく、ということになりますが、合成生物学というのは少し切り口が異なっていて、応用寄りといいますか、基本的には社会課題があって、その課題を解決するために生命の機能をつかおう、というところになります。iGEMでは特に重要なのは課題になりますね。課題をどのように解決できるか、というところが大きなポイントになると思います。

【参考】プロジェクトの概要

うつ病は世界的に認知されている。特に日本では最も深刻な精神疾患の一つであり、その影響により、年間約2兆円の損失が生じているとも言われている。しかしながら、現在確立されている唯一の治療法は、高価な精神療法と副作用を伴う薬物療法のみであり、これらの高リスク治療はうつ病治療の課題となっている。そこで今回、サフラン由来の抗うつ成分をプロバイオティクスでも用いられている大腸菌を用いて合成し、その大腸菌が含まれたクッキーとして提供することで、革新的な”セルフコントロール”できる手段を提供することを目的とした。

サフランのイメージ

【引用】Japan-United のwiki ページより和訳

所属が異なるメンバーとのコミュニケーションはオンラインのみ

ーー研究テーマが決まって、iGEMの発表までに1年を切っている、さらにJapan-United チームは、全国の高校生が学校に依存しない形で集まり、結成したチームとのことですが、どのように研究やプロジェクトの進捗を管理されたのでしょうか?

大竹さん:コミュニケーションは主にオンラインツールを用いて行いました。チーム全体のミーティングは月に一回行い、それには先生方にもご参加いただきました。平日はなかなか難しいので、日曜日の夜に。長い時は1時間~1時間半くらいかかることもあるのですが、それ以外のミーティングは特に話すことがなければ、5分とかで終わっちゃう場合もありました(笑)。ただ、チャットやボイスチャットなんかは必要に応じて。また、アワードの責任者とは個別に2週間に1回を目安にミーティングしていましたね。

ーー対面で集まったことはあったのでしょうか?

大竹さん:対面で集まったことはない。。ですね。

ーーでは、パリの発表の時に「はじめまして」ということですか??

大竹さん:そうですね。パリで初めて会った方もいらっしゃいました。

ーープロジェクトの研究を進めていく過程で、オンラインでのコミュニケーションのみだと、細かい実験内容などの共有やディスカッションをするのはとても難しいイメージですが、どのように管理されていたのでしょうか?

大竹さん:iGEMのプロジェクトの立て方は、一般的な研究と異なっていると思うんです。普通の実験系の立て方だと、このプロジェクトはとてもじゃないけど1年未満で結果は出せない。
実は、僕が以前に似たような研究をたてたことがあったので、その経験を生かしたというところもあります。でも一人ではできないので、メンバーのみんなで話し合って、各ステップの責任者を決めて、責任をもってやっていただきました。

ーープロジェクトの全体的な道筋は大竹さんがたてて、細かいところはメンバーのみなさんと話し合って進めていった、ということなんですね。実験は想定通りにいかないことも多々あると思うのですが、どのように進めていったのでしょうか?

大竹さん:プロジェクトを立ち上げるときには、末次先生をはじめ、色々な先生方に相談させていただきました。はじめに考えていたプロジェクトの内容は、今回発表したものと違う成分を作ろうとしていたのですが、難しいということになって。。そこから他の先生をご紹介いただいたりして、最終的に発表した内容につくりあげていきました。でもここまでに行くのに思った以上に時間がかかってしまって、結構危なっかしいスケジュールでした。

一番つらかったのはwikiの締め切り前

ーー高校生活を送りながら、iGEMの時間を捻出するのは大変だったことと思います。時間に追われたことはありましたか?

大竹さん:夏休みと二学期のはじめは本当に大変でした。ほぼ毎日連絡をとったり、オンラインツール上には常に誰かがいる状態でしたね。

特に、iGEMにはwikiと呼ばれるプロジェクトの概要等をまとめるページがあるのですが、その〆切が10月13日の深夜1時で。9月の終わりからその〆切までは、本当にしんどかったです(笑)。直前まで、wikiの担当者とやりとりをしていました。何とか作り上げたのですが、、他の国の高校生チームのwikiのクオリティが本当に高くて、、去年の高校生のグランドプライズはアメリカのチームだったのですが、そのチームのwikiがアニメーション等も入れて本当にすごかったんです。僕たちはそこまではちょっと行けなかったですね。

ーー初出場で世界一、とても輝かしい成果の影にはきっと様々な困難もあったことと思います。一言で、一番きつかったな。。と思った出来事は何ですか?

大竹さん:やっぱり圧倒的にwiki の〆切前ですね(笑)。寝不足なのもあって、判断力も落ちてて、、本当にきつかったです。初出場でトラックアワードを獲得した早稲田大学のiGEMチームの方に色々なアドバイスやリマインドをすごくいただいていたのですが、、結局〆切の日までバタバタとしてしまいました。wiki担当のメンバーがとても頼もしくて、ほとんどやっていただきました。

ーー頼もしいメンバーがいるって本当に心強いですね!仲間の存在が最後まで頑張れた要因の一つかもしれません。様々な困難を乗り越えて、パリへと向かった時の心境はいかがでしたか?

大竹さん:最後の最後まで、気は抜けなかったです。飛行機の中でも、想定される質疑応答の内容を検討したりと、本当に終わるまではiGEMの発表のことで頭がいっぱいでした。

ーー発表が終わって世界一を獲得した瞬間は、メンバーのみなさんとどのような気持ちでむかえたのでしょうか?

大竹さん:そうれはもう、、言葉で表せないくらいに嬉しかったです。涙を流すメンバーもいて。あ、僕は泣いてないですけど(笑)。でも本当に嬉しかったし、ホッとしました。

ーーiGEM出場、そしてGrand Prize の獲得は、大竹さんにとって、とても貴重な経験になったと思います。また来年もiGEMに挑戦するご予定はありますか?

大竹さん:実は、iGEMへの挑戦は今回で一区切りになります。来年受験生になりますので、まずはそちらに専念します。

ーーiGEMで全力を尽くして、今度はそのパワーを来年の受験に向けるということですね。頑張ってください!応援しています。最後に、これからiGEMに挑戦する皆様へのメッセージをお願いします。

大竹さん:僕のメッセージというより、僕が大切に思っていた言葉は「iGEMは楽しい活動なので、もし、途中で苦しかったことがあったら、それは何かが間違っていること」。これは早稲田のiGEMチームの方にいただいたものなのですが、ずっと意識して心の中にありました。

iGEMパリ大会現地にて。下段の中央(大竹さん)

『iGEMで世界一になるために。』全力で一年間を駆け抜け、高校一年生で立てた目標を見事達成した大竹さん。今回の経験を糧に、新たなステージへ挑戦する大竹さんをこれからも応援しています!

【後編】では、Japan-Unitedの顧問の立教大学理学部生命理学科 教授 末次 正幸 先生のインタビューの内容をご紹介いたします。