2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

後編)iGEM-2023年パリ大会、初出場で世界一!

サステナビリティ

【後編】チーム顧問 立教大学理学部生命理学科 教授 末次 正幸 先生のインタビュー

iGEM(The international Genetically Engineered Machine competition)は、合成生物学の“ロボコン”として毎年秋ごろに世界大会が開催されます。その高校生部門で『Japan-United 』は日本人チームとして初めて世界一(Grand Prize)を獲得しました。おめでとうございます!

今回、世界一に輝くまでにどのような物語があったのか、『Japan-United』のチームリーダー 大竹 海碧 さんと顧問の立教大学教授 末次正幸 先生にお話しを伺ってきました。

コスモ・バイオのiGEM応援団
igemアイコン

コスモ・バイオでは、生命科学の進歩発展を担う若手研究者の支援を目的として、世界的な生物ロボットコンテスト(International Genetically Engineered Machine:iGEM) に参加される団体に、寄附金をご提供しています。

▶ コスモ・バイオの生物ロボットコンテスト(iGEM)応援団についてはこちら
▶ iGEM公式ホームページはこちら



後編ではJapan-Unitedの顧問の立教大学理学部生命理学科 教授 末次 正幸 先生のインタビューの内容をご紹介いたします。

若い人を応援したい。『自由な研究の場』を提供したかった。

ーーそれでは末次先生のお話をお伺いいたします。
今回、高校生で、さらにはメンバーの所属が異なるチームということで、ディスカッションや実験の場所の確保など、一般的なチームよりもかなり大変な状況であったと想像しました。そんな中で、顧問を引き受けようと思った一番大きなポイントは何でしょうか?

末次先生:やっぱり若い人たちを応援したいという気持ちが大きかったですね。自分もそうだったのですが、新しいことをしようとすると、色々なしがらみだったり様々な壁もあってできないことが多々ありますが、、そういうのが嫌で(笑)。今回のチームのみんなには自由に研究できる場を提供したりとか、僕でできることは色々協力したいな、と思っていました。

例えば、ラボ使っていいよとか、ですね。

ーーラボを自由に使えるのはメンバーにとって本当にありがたいことだと思います。先生からみて、Japan-United チームのみなさんの印象はいかがでしたか?

末次先生:やっぱり今の若い人たちって感じだなーと思いましたね(笑)。ほとんど全部オンラインでつながって、すごいなって純粋に思いました。

ーー私も先ほどの大竹さんのお話を伺って、本当にすごいなと驚きばかりでした。デジタルコミュニケーションツールをとても上手に使って、対面で集まることのできないデメリットをツールを使って補完できたということですよね。

末次先生:そうなんですよ。何なら対面よりもコミュニケーション効率は良かったという印象です。
iGEMのプレゼンは動画で審査されるのですが、作成した動画もアニメーションを使っていてとても良い出来栄えでした。
世の中のツールの発展があって、それを使いこなす新しい世代だなっていうのをすごく感じました。

アドバイスは実験の「イロハ」を中心に。上手くいかないときの立て直しもサポート

ーーチームメンバーの皆様にはどのようにアドバイスをされていたのでしょうか?

末次先生:ただ、本当に自由に楽しくやってもらうのが一番、と思っていました。それでも、色々と進めていく上で、自由にいかないこと、困ることも出てくるだろうから、その時はサポートするよ、というスタンスでいました。

特に、Wetの実験に関しては、やっぱり高校生なので、大学の研究で使うようなマイクロピペットの操作や基本的な実験について、大学院生にアドバイスしてもらって習得するということはありましたね。
ただ、東大で研究をやってるメンバー、特に大竹くんなんかはもう、はじめからプロみたいに操作してましたけど(笑)。

私がアドバイスしたことを強いて言うなら、基本的な実験の進め方の「イロハ」、例えばコントロールはちゃんと立てましょう、とかそういったところですね。

そして、上手くいかないときのサポートですね。長く研究していると「実験は基本的にはうまくいかない」っていうことがわかるけど、初めて実験するときは、みんなうまくいく気満々ですよね(笑)。でも実際はそんなに甘くない。そうなった時に、どうしたら上手くいくようになるかを調整して、進め方をアドバイスするって感じでしたね。でも、あくまでサポートというかたちで関わっていましたよ。

大竹さん:僕もそうだけど、今回のメンバーの中には色々と経験している人も多くて。
文章を書くのがすごく上手な人や、プレゼンがとても上手な人もいて。また実験の基礎的なところを認識しているメンバーが集まっていたので、比較的実験等に関しても入りやすかったです。

末次先生:そうそう、ほんとに優秀な方ばかりでした。

iGEM勝利の要因は『ストーリー、評価ポイントの理解、走りながらの成長』

ーー先生からみて、今回Japan-United が高校生チームでGrand Prize を獲得できた要因は何だと思いますか?

末次先生:今回のiGEMプロジェクトの内容は、ざっくり言うと「メンタルヘルスの予防的観点から、大腸菌で発現させたサフランの構成成分のクッキーを作った」というものなのですが、評価されたのは、その課題から、解決するまでの一連の流れだと思うんですよね。成果物(クッキー)が出来上がったことそのものが評価の対象ではなく、結果はその一連の流れの中の一部。ただ、その“クッキー”を作り上げるまでに、様々な障壁があって、それを一つひとつ乗り越えていった、乗り越えていけたことが評価されたんだと思います。

ーーこれがダメだったから、次はこうしていこう、という『積み重ね』の内容が良かったということでしょうか。

末次先生:そうです。ダメだった時にまた課題が見つかりますよね。その課題に対してどのように対応するか、これをiGEMでは「DBTLサイクル(※)」を回すって言うんですが、今回のプロジェクトではこれが非常によくできていて。課題の発見とそれを解決していくストーリーがしっかりしていたので、そこが一番評価されたのではないか、と推察しています。

※DBTL:(Design(デザイン)、Build(構築)、Test(実験)、Learn(学習)の頭文字をとったもの。

実際、今回のプロジェクトでは、はじめからしっかり決まっていたわけではなくて、実験しながら、新しいことにどんどんチャレンジして、みんなでアイデアを出し合って良いストーリーになっていきましたね。

また、チームリーダーを中心に、メンバーが ”iGEMがどういう風に評価するか” というのを的確につかんでいたというところも勝因の一つだと考えています。

でも、最初からそれに向けてギチギチに進むのではなくて、常にそれに対して新しいものだったり、上を求めていろんな人の意見をきいて。走りながらいろんな人から“武器”をうけとってステップアップしていったイメージですね。

だから、チームメンバーもすごく楽しかったと思いますよ。ずっと成長していくんですから。 ゴールにむかって、決まった道を進んでいくのではなくて、色んなものを取り入れていったのもよかったですね。

ーーゴールや審査員の評価ポイントを共通認識としてもち、成長しながら道を切り開いていった感じですね。その切り開き方(ストーリー)が評価された、ということですね。

お互いの足りないところを補い合う、高いチーム力

ーー現地(パリ)での発表は英語のみで、そこでもチームメンバーの工夫があったと伺いました。

大竹さん:僕自身は英語をあまりしゃべれなかったので、難しい質問がきたら英語のできるメンバーに同時通訳してもらって対応しました。

末次先生:こういうところもいいですよね。できないところはみんなで補い合って解決していく、っていう姿勢が本当に素晴らしいなと思っていましたよ。

ーー英語の話せるメンバーの方と一緒にパリに行ったのですか?

末次先生:いや、これは驚くことに遠隔でおこなったんですよ。すごいですよね。なかなかそんなことをしよう、そしてできる子たちってなかなかいないと思います。

でも、それでいいんです。英語がしゃべれなくっても。みんなで助け合って、何とか解決していこう、ってその姿勢が本当に素晴らしい。

ーーいよいよ結果の発表の瞬間が近づいてきて、先生はリアルタイムでみていたのでしょうか?

末次先生:はい、もちろんです。ドキドキしながらオンラインで見ていました。

ーーGrand Prize の受賞が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

末次先生:それはもう。。。震えますよね(笑)。みんな頑張ったな。よかったなーと本当に嬉しかったです。

同時に、若い時にこのような素晴らしい体験ができて羨ましいなとも思いました(笑)。

ーー私も、ニュースで結果を見た時には本当にうれしかったです。でも、今回改めてお話しを聞いて、当時を思い出して震えました(笑)。改めて、この度はおめでとうございます。

大竹さん、末次先生、お忙しい中とても貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

思い出の末次研究室にて
2023年パリ大会 Grand Prize を獲得して笑顔はじけるメンバーのみなさん。

取材後記

今回の取材の前は、初出場で世界一を獲得した高校生の大竹さんと世界的にも著名な末次先生へのインタビューとのことで少々緊張していましたが、お二人のお人柄がとても素敵で終始和やかな雰囲気でお話を伺うことができました。

中学生の頃に遺伝子工学に興味を持ち、合成生物学に魅了された高校生の大竹さん。その学問への熱意と、それを突き詰めていく行動力、そして常に先を見つめている姿に、研究に対する確かな信念を感じました。

また、その想いをしっかりと受け止めてご指導された末次先生。「若い人たちの手助けをしたい」というお言葉の通り、未来の研究者たちへの「愛」をとても感じました。

大竹さんがどのような研究者になるのか、今からとても楽しみです。心より応援しています。