(前編からのつづき)
審査は(たぶん)大変である
筆者は審査員の経験がないため憶測ではあるが、審査はたぶん大変である。審査員1人あたり推定60人分くらいの書類を読むため、仮に1 件に10分かけても10 時間を費やすことになる。審査員に指名されるのは大学教授などの著名な研究者であるから、きっと研究・教育・学務で多忙な毎日を過ごしていると思われる。そんな中で10 時間をどうやって捻出するのか。おそらくは、例えば1日20人分ずつ読んで感想をメモしておき、最後にまとめて相対評価を決める、といったようなことをやるのだろう。評点は5点満点だが、厳密に1点:2 点:3 点:4 点:5 点を1:2:4:2:1の割合で付けるよう義務付けられているため、初日に読んだ20人と最後に読んだ20人も公平に相対評価しないといけない。時間的制約も厳しい中で、そんな審査をするのはきっと大変である。
この事実を踏まえて応募者が取るべき戦略は、「徹底的にわかりやすく」かつ「見た目を良くする」ことである。たとえ短時間で読まれたとしても、内容が面白く、見た目のインパクトもあり、計画も具体的でわかりやすく、書いている内容に疑問もなく納得できる、となれば高評点が期待できる。特に見た目の良さは審査員の記憶に残る。わかりやすい図があれば、なおさらである。逆に減点箇所は目につきがちだし、比較材料として減点理由も必要である。できるだけ隙がない申請書を目指そう。相対評価なのでどうしても運の要素はあるが(同じ審査員に渡った60 人がたまたま全員凄い、もあり得る)、可能な限り高評点を狙えるように気を配りたい。
主体性・オリジナリティを主張する
研究者にとって独創性はきわめて重要である。研究自体の独創性も重要だし、研究者個人が独創的であることも重要である。要は、尖っているさまを見たいわけである。主体性やオリジナリティは、とにかく主張できるようにしたい。研究テーマが研究室全体のテーマとだだ被りだと、テーマが単に指導教員から降ってきただけに見られてしまうかもしれない。あくまで自分が主体的に考えたということをうまく説明したい。
ところで、近年は書籍やインターネットでの学振申請書の書き方・ノウハウの普及により、申請書の平均的なクオリティが向上しているようである。だが、「学振本3)の読み過ぎなのか、みんな金太郎飴みたいな申請書なんだよねぇ…」といった類の意見があるのも事実である。学振本がテンプレートのような役割を担っていて、どうしても内容が似通ってしまうようである。まずは型にはめて、きちんと申請書を書き上げることが何より重要であるが、その先に一歩進むために、守破離の精神でオリジナリティのある申請書に仕上げていきたい。
2023年の学振の変更点
2023 年(2024 年度申請分)の変更点として、2つの大きな変更があった。
1)応募区分に応じて記入:A/Bどちらでも成り立つように記載を
研究目的・内容の頁で、科研費(特別研究員奨励費)の応募区分に応じて計画を記載する形式に変更された。応募区分はA区分とB区分があり、科研費の額がB区分の方が大きくなっている。B区分については研究計画上必要な場合のみ記入とされているので、基本的にはA区分として研究計画を書き、追加的にB区分で通ったときの内容を書くことになる。なお、審査のされ方はA/Bどちらの区分で出しても変わらず、仕組み上はおそらく「点数上位から予算の範囲でB区分申請した人をB区分で採用し、残りはA区分で採用」という方法で採用されることになると予想される。つまり、各区分の内容と採否は関係がなく、評点が低ければB区分で申請してもA区分で採用される可能性がある。
注意点として、申請書がB区分の話ばかりだと、「A区分で採用したらこの研究計画は成り立たないのでは?」と審査員に思われてしまうおそれがある。そのため、B区分の内容はせいぜい4~5行程度に収めるのが良いと考える。研究計画がAでもBでも成り立つようにするべきであり、「A区分で採用しても魅力的、B区分で採用したたらすごく発展しそう」と思われるよう良いバランスを取りたい。
2)学振PDの雇用化:雇用保険などの福利厚生を確保
日本学術振興会の「研究環境向上のための若手研究者雇用支援事業」の創設により、受入研究機関が学振PD を雇用できる制度が制定された。これは大学等の各研究機関が日本学術振興会に申請して実施するもので、最速で2024 年度から実施の可能性がある。なお、現在までに東北大学が実施の決定についてプレスリリースを出しており、東北大学ではこの制度を活用して自己財源も併用し、学振PDの給与を23% アップさせて月44.4 万円にする制度として実施することを表明した4)。
終わりに
学振に限らずグラントの申請にはどうしても運の要素がある。どれだけ頑張って素晴らしい申請書を書いたとしても、学振は20% しか採択されない。経験的に、どんなに優れた研究者であってもグラントは3 割当たれば良い方である。少しでも打率を上げるためにできることを全てやり、ダメでも再チャレンジすることが重要である。数をこなすこと、経験を積むことは、上達への早道である。ぜひ躊躇せずに挑戦してほしい。
■参考文献
1) 日本学術振興会:特別研究員・制度概要(https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_gaiyo.html, 参照2023-05-08)
2) さきがけ:プログラムの概要・趣旨、科学技術振興機構(https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/about/index.html, 参照
2023-05-08)
3) 大上雅史:学振申請書の書き方とコツ改訂第2 版 DC/PD 獲得を目指す若者へ.講談社、2021(および本書初版、著者執筆)
4) 東北大学:プレスリリース・ポストドクター(PD) 等の研究活動促進に向け、日本学術振興会の新事業を活用した東北大学独自の待遇改善方針を決定(https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/04/press20230418-01-pd.html, 参照2023-05-08)
掲載元:Lab First Vol.2