2023年8月25日 Lab.Firstを公開しました。

和歌山工業高等専門学校 公開講座2023 前編 – 遺伝子を取り出そう –

サステナビリティ

 2023年度、和歌山工業高等専門学校の生物工学学生実験室で、公開講座『Biodiversity and Chemistry in KOSEN – 生物の不思議を調べてみよう! -』が開催されました。この講座は、科学への関心を高めることを目的に、『遺伝子』をテーマとした2つの実験を通じて、生物の不思議に迫る内容です。 

 2023年12月9日に行われた1つ目の実験では、『遺伝子を取り出そう』をテーマに、受講者自身の頬の細胞からDNAを抽出し、実際に目で確認することに挑戦しました。この体験を通じて、DNAが『物質』として存在することを実感をもって理解しました。

 2024年2月17日に実施された2つ目の実験では、大腸菌から抽出したDNAを用いて、PCRによる増幅と電気泳動を体験しました。さらに、PCR技術がウイルス感染の診断にどのように活用されているかについての講義も行われ、受講者の皆さんはその仕組みを学びました。

 今回の記事では、2023年12月9日に行われた1つ目の実験をレポートします。この実験には、小学4年生から中学2年生までの12名が参加し、科学の面白さを存分に味わう充実した一日となりました。

講師紹介

 講師は、和歌山工業高等専門学校 生物応用化学科の教授 奥野祥治(おくの よしはる)先生です。奥野先生は、ライフサイエンス分野では食品科学や生物有機化学、ナノテク・材料分野では生体化学や機能性化学などのプロフェッショナルでらっしゃいます。

 2022年10月には、和歌山県みなべ町と和歌山工業高等専門学校、大阪河﨑リハビリテーション大学、東海大学が進める共同研究において、梅の老化予防効果や認知症予防効果、新型コロナウイルスへの効果検証に関する成果を発表しました。奥野先生は、このような地域社会への貢献活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。

奥野先生
奥野先生

今日はDNAを題材に、科学の面白さを存分に味わってもらいます!普段は目に見えないDNAですが、皆さんも含め、生命の成り立ちに深く関わるものです。初めてのことばかりかもしれませんが、楽しみながら進めていきましょう!

実験:遺伝子を取り出そう

 実験前の講義では、DNAがどのような物質なのかを学びました。普段は意識することがなく、目に見えないDNAですが、今回はDNA抽出キットを使い、受講者自身のDNAを取り出しました。さらに、抽出したDNAをペンダントに加工し、記念として持ち帰ることができました。

遺伝子を取り出す

① 細胞の採取:自分の頬から細胞を採取する。頬の内側を軽くほぐすように30秒間ぐらい噛んだあと、15 mL チューブの水を口に含み、ブクブクと口の中をすすぐ。

② 細胞の破壊:細胞と核の膜を壊す。紙コップにすすいだ水を吐き出し、その水3 mL を15 mL チューブに移す。ピペットでライシスバッファー3 mL を加え、フタを閉めて5回上下させる。

奥野先生
奥野先生

『ライシスバッファー』は、界面活性剤の一種です。細胞や核の膜は脂質でできているため、このバッファーを加えると膜が溶けて、内部のDNAが取り出せるようになります。チューブはゆっくり上下に動かし、強く振らないようにするのがポイントですよ。

③ タンパク質の除去:DNAに結合したタンパク質を溶かし、同時にDNAを分解するタンパク質を除去する。プロテアーゼ溶液を0.25 mL加え、チューブに入れる。チューブを穏やかに5回上下させた後、50℃のウォーターバスで10分間温めてインキュベートする。

奥野先生
奥野先生

『プロテアーゼ』は、タンパク質を分解する酵素で、混ぜることで細胞内の不要なタンパク質を取り除くことができます。50℃で最も活発に働くため、この温度で温めて効果を最大化させます。

④ DNAの不溶化:冷たいアルコールと塩を加え、DNAを水に溶けない状態にする。チューブを45度に傾け、冷やしたアルコール10 mLをゆっくり流し込む。その後、チューブを直立させ、静かに5分間放置する。

⑤ DNAの凝集:水に溶けなくなったDNAが集まってくる。チューブをゆっくりと5回上下させ、DNAをより集まりやすくする。

⑥ ネックレスの完成:析出したDNAをピペットで吸い取り、アルコールとともにネックレスモジュールに移して完成。

奥野先生
奥野先生

④の手順では、溶液とアルコールの境目に注目してみてください。ここにDNAが析出してきます。⑥では、ネックレスのモジュールを仕上げる際に、接着剤で口の部分をしっかり固定すると、長持ちしますよ。

受講者の皆さんの様子

 実験の前には、DNAはどのような物質で、どんな形をしているのかについての説明がおこなわれました。DNAの長さが細胞の核の中で約2メートルにもなることなど、小学生の受講生にとっては少し難しい内容もありましたが、皆さん、驚きと興味をもって真剣に耳を傾けている姿が印象的でした。

ティーチングアシスタントの学生さんが、DNAの基本的な説明や実験の進め方について丁寧に解説してくれました。

 実験が始まると、受講者たちは、自分の頬の細胞を採取するために、口をすぼめて頬の内側をこすり、その後、口の中をすすいで細胞を含んだ蒸留水を取り出しました。その溶液に各試薬を加えたり、熱処理を行ったりしながら実験を着々と進めていきました。

頬から取り出した細胞溶液を慎重にチューブへ移していました。
チューブを優しく反転して、DNAを析出させました。

 そして、チューブの中に糸状のDNAが現れた瞬間、自分のDNAを実際に目で見るという体験に、驚きと感動の声が上がっていました。

 最後には、抽出したDNAをネックレスモジュールに収め、世界に一つしかない自分のDNAペンダントを仕上げることができました。

完成したDNAペンダント。白い沈殿物がDNAです。

受講者アンケートの結果

 受講者全員から『わかりやすかった』『とても興味を持てた』という高い評価をいただきました。以下にアンケート結果の一部を抜粋してご紹介します。

  • DNAは『デオキシリボ核酸』という名前だと分かった。
  • 自分の体の中にDNAがあると分かった。
  • DNAを初めて見た。DNAがどのような見た目か分かった。
  • DNAやゲームなど知識はあったけど、実際に実験を通して実物を見ることができたので、とてもためになりました。

奥野先生に聞いちゃおう!遺伝子の不思議

コウタイガー
コウタイガー

奥野先生、『DNA』って何ですか?

奥野先生
奥野先生

DNA(Deoxyribonucleic Acid)は『デオキシリボ核酸』という物質で、細胞の中にある核という場所に入っています。DNAは遺伝子の本体で、みなさんの体の特徴や、どんなタンパク質を作るかを決める大事な情報が詰まっているんです。DNAは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つの塩基でできています。

この4つの塩基がさまざまな順番でつながることで、いろいろな遺伝情報が生まれます。簡単に言うと、DNAは体の設計図のような役割を持っているんですよ。

DNAの構造
コウタイガー
コウタイガー

DNAはどんな形をしているんですか?

奥野先生
奥野先生

DNAは『二重らせん構造』という、ねじれたはしごのような形をしています。この形のおかげで、非常に長いDNAが小さな細胞の核の中にしっかりと収まっているんです。

1つの細胞に含まれるDNAの長さは約2メートル。それが体を構成する約60兆個の細胞すべてに入っていると考えると、つなげた長さはなんと約1,200億キロメートル!これは地球と太陽を何百回も往復できる距離に相当します。

DNAの二重らせん構造
コウタイガー
コウタイガー

DNAと一緒に『ゲノム』という言葉もきくのですが、ゲノムって何ですか?

奥野先生
奥野先生

ゲノム(genome)とは、『遺伝子(gene)』と『染色体(chromosome)』の言葉を合わせたものです。細胞の中には、遺伝子の集合体である染色体があり、その中にDNAがコイル状に巻かれて収まっています。ゲノムとは、このDNAに含まれるすべての遺伝情報のことを指します。

ゲノムの構造

後編に向けて

 前編では、自分自身のDNAを取り出し観察する体験を通じて、DNAが物質として存在することやその基本的な構造、仕組みについて学びました。自分のDNAを閉じ込めた、世界に一つだけのペンダントを作れたことは、受講生の皆さんにとって良い思い出になったのではないでしょうか。

 後編では、大腸菌から抽出したDNAを使い、PCRによる増幅と電気泳動を実際に体験します。さらに、PCR技術がコロナウイルス感染の診断にどのように活用されているのかを学ぶ講義も予定されています。

 DNAが持つ可能性について、より深く探求する後編をどうぞお楽しみに!

▶『和歌山工業高等専門学校 公開講座2023 後編 – PCRについて知ろう -』はこちら

【写真・イラストの引用元について】

本記事内で使用した写真・イラストは、奥野先生のご厚意により、共有していただいた資料から引用させていただいております。